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Home > フローリストインタビュー > NO.010 斎藤由美


斎藤由美
本を出版し、今、すごい注目を集めているのがパリ在住フローリストの斎藤由美さん。 ホテルリッツの花装飾をはじめ大作を手掛けるプロフェッショナルですが、気取らず気さくな人柄で多くのファンを魅了しています。 インタビューの間も常に笑顔で自然体・・・その裏には「ど根性」で乗越えたパリ花修行があったのでした・・・

お花を始めたのは18歳のとき、いけばなを習ったのが最初です。 東京の叔母がやっていたフラワーアレンジメントを見て、とても素敵だなと思っていました。 そんなとき地元信州にもフラワースクールができたんです。 娘はまだ1才でしたけど、迷わず第一期生になって講師の資格をとりました。 当時住んでいたところは、とても元気のある町で、まだ20代の私に生涯学習の講師というポストを与えてくれました。パリに行くまで6年ほどフラワーアレンジメント教室を開講。 毎年生徒さんが増えて7教室ほど持っていました。

お花の仕事をしながら雑誌や本を見て「わあ、これすてき」と思うのがクリスチャン・トルチュのお花で「いつかパリに行って勉強したいな〜」とずっと思っていました。それでラジオ・フランス語講座を聴いて独学。長野冬季オリンピック・ボランティア養成講座で、ネイティブの先生と会話する機会もできました。午前中の初級クラスで登録。 お昼は先生と一緒に食べて、午後は「闇の生徒」として置いてもらって。その後、フランス旅行したときにフランス語が通じたのがうれしくて。車で移動中はテープを聴いてさらに勉強。仏検3級に合格しました。あとは渡仏後、毎日仕事場でフランス語にまみれて、たたき上げ(笑)。今まで語学学校には一度も行ったことがないんです。

語学を始めるのは、英語からですよね。そうするとアメリカやイギリスに興味を持つのでしょうが、私は英語が嫌いで英語圏には興味がないのです。フランスが好き。なぜかはわからないけれど好き。旅のパターンにもいろいろあって、知らないところへ出かけて行く人と、気に入ったところに毎回行く人がいますよね。私の場合、年に1回外国に行けるとしたら、とにかくパリに行きたかった。住むようになる前に3回行きました。

パリに花留学したのは2000年の4月です。夫と別々の人生を歩むという選択をしたときに、それならずっと行きたかったパリに行こうと決心。1年間は準備期間として、貯金をしたり、日本語新聞でアパルトマンを探したり、情報収集。パリに来て半年後、いろいろな方のおかげで憧れのクリスチャン・トルチュに入ることができて。そこで知り合った方々や、勉強させてもらったことがベースになって、今の仕事があるという感じです。

トルチュ時代は本当に楽しい日々でした。お店にものすごく勢いがあったときで、現在ニューヨークやパリ、ミラノ、日本などで活躍しているフラワーアーティスト、カトリーヌ・ミュラーやアレックス・カンビたちがスタッフとして技を競っていて、毎日デモンストレーションを見ているようなものでした。それと、私は「便利者」だったので(笑)カンヌやモナコなど、大きないけこみに毎回連れていってもらえました。

フランス人は用意周到じゃないので、現地で突然「あ、ゴミ袋忘れちゃった」とか言うんですね。そうすると私は、お掃除しているおじさんを探して「ゴミ袋下さい」、同時にホウキとチリトリも借りてきます。黙っていても仕事が終わるころには、掃除も済んでいます。日本人だったら当たり前のことですが、フランス人はそうではないので、重宝がられました。おかげで最高級ホテルやパリ・コレクションなど、いい仕事をたくさん見ることができました。 そのうち、お店のディスプレイをやらせたい店長と、デコに連れていきたい責任者と、定期いけ込みに行く担当者が「誰がYUMIを連れていくか」で、お店の中なのにギャーギャーとわめきだしたこともありました(笑)。私がフランス語を話せたことも大きかったと思います。

コートダジュールで、お花の予算が4000万円相当!という大きな結婚式もあったんですよ。大工さんが来て、海の見える芝生の庭に会場と花道を作っているんです。私たち11人のスタッフも1週間滞在して、水揚げから装飾、撤去を行った、それはそれは壮大なデコでした。パリに何年いたとしても、小さいお店にいたらできないようなことを見せてもらえたのは、本当にしあわせなことだと思います。

そんな経験があるので、ホテル・リッツのロビーを飾る大作を1人で任されても時間内に形にしますし、不測の事態にもなんとか対応できます。現在コラボレートしているフラワーブティック「ヴァルダ」は、まだオープンして3年。オーナーもスタッフも私より年下で「YUMIがいれば大丈夫」と思っているようです。実は内心ヒヤヒヤしていることもあるんですけどね(笑)。顔に出すと、みんなを不安にするので、いつも「ZEN」で。

私は本当に不器用で、のみ込みの悪いタイプなんです。フラワースクールに通っていたころも劣等生でした。トルチュで研修を始めても、トルチュスタイルのブーケを作れるようになるまで8カ月もかかりました。同じ時期に韓国から来ていた研修生は、すぐに上手になって注文ブーケの仕事も任されて。毎日、練習していたのに私にはブーケの仕事が回ってこなくて、情けなく切なく悔しい思いをしていたのです。

でも、いったんできるようになってからは、3万円相当の大きなブーケを作ることが日常になりました。そこがフランスのすごいところだと思うのですが、外国人でも、後から入った人でも、きれいなものや、みんなが認めるものを作れば重要な仕事が回ってきます。「ヴァルダ」のオーナーも「YUMIの好きなようにやっていいよ」とホテル・リッツの装飾も、お店のディスプレイも全面的に任せてくれるので、とてもやりがいがあります。

今、私の礎になっているのは、トルチュのスタッフから教えてもらった「これはイン、これはアウト」という基準ですね。例えば、大きなデコレーションのときは仕入れやすいのでバラをたくさん使います。でも、お店で凝ったブーケを作るときに普通のモダンローズを手に取ったらアウト。「YUMI、そんなブーケ作るなら、日本へ帰れ」と言われたこともあります。他のお店でも作れるような平凡な作品を作ってはいけない、という暗黙の了解がありました。

色合いについても、私が選んだ花に「この色とこの色の取り合わせは、ないんじゃないの?」って言う。反対に、きれいなものを作ると「これはいい。大好き、すばらしい」って大絶賛。でもそうでないときには「う〜ん、ぼくはあまり好きじゃない」とか、お互いみんながはっきり言うのです。最初は人格まで否定されたようで、泣きそうになりましたけど、そうではなくて、率直な意見をかわすことで切磋琢磨され、それによってお店のスタイルやレベルがキープできるのだとわかりました。

ただそれは不変なものではないし、「絶対」なものでもないと思います。私は、このスタイルが大好きで、そのスタイルを伝えるレッスンをしているわけですが、全員が好きとは限らないと思うし、今後古くなっていくこともあるだろうな、とは思っています。 いずれにしても、トルチュのスタイルを身につけられたことが一番の収穫です。

そして、今でも続く同僚フローリストたちとの交流。 アレックスがフィレンツェで2晩続く大きなソワレの花装飾をしたときも「絶対に来てね」とイタリアまで呼んでくれましたし(フォトエッセイVOL6参照)、ヴァンソンが手がけたマリアージュのときも声をかけてもらって(フォトエッセイVOL3参照)。カトリーヌも困ったことがあると電話してきます(笑)。東京のトルチュ・ジャポンの社長さんにも当時からずっと親切にしていただいています。

私はよく「自然体ですね」と言われますが、実は「ど根性」なんですね。根性がなかったらパリに7年も生きていられません(笑)。今、好きなことを好きなところでやっているので、安定した老後を望んだりしてはいけない、と一応自覚しているわけです。その代わり「今を楽しもう」とか「明日何があっても後悔ないくらいに生きていこう」と思っています。だからネガティブなことは極力言いませんし、マイナスなオーラが出ている人とは付きあわないようにしています(笑)。実際、楽しそうにしている人の周りに楽しそうな人が集まってくるんですよね。日本で行うデモ&レッスンも、そういう方々が集まって下さるから、相乗効果で、どんどん楽しいものになっていくんです。

さすがに「ど根性」な私でも、深夜の1時半にホテルリッツへいけ込みに行かなければならないときなど「今日は休みたいな〜」と思うことがあります。でも行くとやっぱり、きれいなものができていく喜びがあるんですね。レッスンで、みなさんに喜んでいただけるのも、とてもうれしいんです。だから、あまり「お商売」のことは考えてない・・・。良心的すぎて、とても商売上手とは思えない神戸のボ・クールさんにダメ出しされるくらいです(笑)。

でも私が好きな花を、好きなだけ使って、満足したもの、気に入ったもの、本当に心から「きれい」と思えるブーケを作っていただく。だからまた、みなさんが来て下さるのだと思っています。ビジネスが先になってしまって、花代はこれだけに抑えなければいけない、とか、古いお花から使いきらなければいけない、とかになると、好きなお花ばかり選べないですよね。ありがたいことに私の場合、やりたいようにやらせてもらえる環境にいるから、仕事は労働でもなく義務でもないんです。

みなさんご存じだと思いますが、お花屋さんは肉体労働で、寒いし、手も荒れるし、汚れるし、立ちっぱなしです。お店のディスプレイをするといっても、散らかっている花瓶を洗うところから始まったりするわけです。お花を飾るのは、もう最後の最後。それまでに下働きがたくさんありますが、それをいやだとは思わないし、やらされているとも思いません。ヴァルダのオーナーは「そんなことYUMIがしなくてもいい」と、若いスタッフにやらせようとするんですが、私は当然のことと思っているので自分でします。逆にスタッフや研修生にお花を作ってもらう。もし私が「いいとこ取り」ばかりしていたら、一緒に仕事するフローリストたちとぎくしゃくしていたかもしれません。でもみんなとても大事にしてくれるし、仲がいいんです。だから仕事もやりやすい。それで「いつも楽しそう」って言われるのかな。

今年は、芦屋のフレンチレストランで「大人の女性のためのブライダル装花を」というお話をいただいているので、シーズンごとに日本に帰れたらと考えています。 8月末には、フォトエッセイVOL3で話題になったイケメン・フローリスト、ヴァンソン・レサールが来日を希望しているので、デモやレッスンを企画中。 また撮りためたパリスタイルのブーケや、街角の写真をポストカードブックなどで、形にしたいと思っています。「言っていれば叶うことが多い」というのが経験から来る私の持論なので、大それたことでも言ってしまいます。

昨年11月にダイヤモンド社から『二度目のパリ』という、パリ・リピーターのための役立ち情報満載のガイドエッセイを出版していただいたのですが、これも「本を出したいんです〜」と2〜3年前から言っていて。そうすると誰かが協力して下さって実現にいたるんです。 今年は「5区か6区(現在住んでいるパリ左岸の中心。カルチェラタン、オデオン、サンジェルマン・デ・プレ・・大好きな界隈です)にあるフローリングのアパルトマンに引っ越して、自宅でもレッスン可能に」と言うことにしたので、そのうち実現するのではないかと思っています。

おかげさまで11月に行ったボ・クール主催「ノエルのパリ・花ツアー」が大好評。次は「女っぷりをあげるパリ・ツアー」開催希望の声があがっていて、楽しみにしています。 まずは自分の女っぷりを上げないといけないのでプレッシャーですが・・・。 パリでいいなと思うのは、きれいにしていると、必ず周りが気づいて、すぐに褒めてくれることです。そうすると、また頑張ろうと励みになりますね。

パリではマダムがかっこいいんです。若い人よりもマダムの貫禄というか美しさはすごいと思います。なぜそうなのかというと、男性はきれいにしているマダムをきちんと女性として扱ってくれるからだと思います。ですから女性も女性であることを捨てない。そういうマダムたちを見ていると「私も、もう40代だから」とあきらめるのではなくて、自分の姿・スタイルに合ったものを追求して「エレガントな大人の女性」を目指したいなと思います。

これからフローリストをめざす人は「これは好き。これは好きじゃない」という自分のテイストを持つことが大事だと思います。それは感覚の問題だから、どれが正しくて、どれが正しくないというのはないのです。でも「このお花の組み合わせが好き」「この色使いはきれいだと思わない」という自分の物差しがないと困ってしまうと思います。

ひとくちにフローリストといっても「お花と人が好き」という人はショップ勤務がいいかもしれないし、自分のお店を持ちたいという人は経営者としての素質も必要ですよね。接客が苦手ならアトリエとか、いけ込みの仕事。値段のことは考えずに自分の好きなものを作りたい職人系ならデモンストレーターとかアーティストとして作品発表。販売やお店をしたいわけではなくレッスンをしたい、という人もいるでしょう。好きなことがはっきりしていると迷いがないし、進む道が見えてくると思います。

フローリストライフで紹介していただいているおかげで、「パリの花店で研修したい」というメールをたくさんいただきます。そういうかたにお願いしたいのは「語学は必須」ということです。1日のプチ研修だったら「お客様」で済むのですが、長期研修希望のかたは、店側からすると即戦力。学校と違って「与えられる場」ではないのです。自分から役に立っていかなくてはならないときに、言われていることがわからないのでは、お店の迷惑にもなりかねません。さいわい、ヴァルダのスタッフはみんなすごく親切で、簡単な英語ができればなんとかなるので、ご紹介していますけれど。

1〜3カ月という限られた期間で、すぐにお店で研修したいかたは、お花の技術云々より語学を勉強された方がいいと思います。またフランスではドタキャンや「ぼったくり」と思えることにもよく遭遇します。それに対応するのにも、語学が身を助けてくれるでしょう。 そこまでしなくても「パリスタイルが大好きで、エスプリを感じたい」というかたは、ぜひ1度、私のレッスンにお越し下さい(笑)。


↓東京青山でフラワーデモを開催!斎藤さんのスゴ技アレンジを生で見られるチャンス☆



◆好きな色◆
オレンジとボルドーとショコラ。みんな食べ物の色ですね(笑)。黒も好きです。
◆好きな花◆
桜です。花も、若葉も、紅葉も、冬枯れの様子も好き。
◆好きな料理◆
ベルちゃんのフレンチ家庭料理と、はつみちゃんのエスニック料理。どちらも友人の作る絶品です。
◆好きな雑誌◆
「COTE EST」「ELLE DECO」。マガジンハウスの雑誌も好きです。
◆好きな場所◆
パリ6区オデオン交差点6番地。トルチュのあった場所です。私の原点。近くにあるリュクサンブール公園も思い出の多い好きな場所です。
◆好きな言葉◆
七転び八起き。転んでもただでは起きない、というのが座右の銘です(笑)。




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